2013年7月10日水曜日

イリハム・トフティ:ウイグル人はなぜ挫折感を感じているのか



イリハム・トフティ:ウイグル人はなぜ挫折感を感じているのか

2013/07/08 初出:ラジオフランス(RFI

ここ数か月の間に、新疆では暴力事件が頻発している。4月中旬にマラルベシの流血事件、6月末から7月初めにかけて、わずか3日の間にさらに2件の暴力事件が発生した。「75事件」4周年に、政府の警備は強敵に立ち向かうかのようで、ウルムチは不吉な雰囲気に包まれている。なぜ新疆では暴力事件が頻発するのか? 中央民族大学副教授、インターネットサイト「ウイグルオンライン」のチーフ、イリハム・トフティがウイグル人内部社会の構造のここ2年ほどの間の変化について、ウイグル人農民と青年の境遇、当局の新疆政策、およびウイグル人の権力層内での代表などのいくつかのレベルで解説してくれた。イリハム・トフティは、ウイグル人は夢のある、歴史のある、信仰のある、文化のある、連帯意識の強い民族であり、当局は彼らの政治、経済、文化の各分野の成功を支援すべきであり、民族の挫折を図るような管理方法は逆効果にしかならないと語る。高圧的な政策を続ければ、結局全民族が抵抗文化を作り出すことになる。情勢は厳しいが、イリハム・トフティは、中央政府が政策変更を決断すれば、新疆問題の解決はまだ可能だと信じている。

★ウイグル人の内部社会構造に新たな変化が生じた

RFI4月にマラルベシで流血事件が発生してから、最近3日間のうちにさらに2件の暴力事件が発生し、暴力事件はますます頻繁になっているが、この現象をどう見るか?

イリハム:私は後知恵ではなく、2009年〔75事件後〕に私が拘留された時、彼ら〔警察当局者〕と話したことがある。当時私は、将来の新疆ではこのような暴力的衝突が増加し、5年から10年のうちに、このような散発的な事件が一種の運動に発展していくだろうと大胆にも予測した。私の当時のこの言葉は、当局はこのチャンスを利用して新疆政策を調整し、庶民に理性的、平和的、法的手段で自らの要求を表現し、問題を解決できると信じさせなければならないという主張の前提として語ったのだ。だが、今から見ると、当局はそれをしなかった。庶民は今、理性的、平和的、法的なルートで問題を解決できるとは信じていない。しかも、最近状況はさらに変化しており、とりわけ農村地区で変化している。ここ数年、中国の労働状況が変化し、物価が上がり続けている。いま漢人の農業戸籍労働者は求人難だ。新疆では、50年代、60年代、さらには80年代まで、農民も、小学校卒業者も、中学卒業者も、高校卒業者も、職業高校卒業者もみんな企業に就職できた。だが今は、漢人企業、民営企業は〔地元民族を〕募集しないし、国有企業も募集しない。農民はわずかな耕地しかなく、都市化と工業化は農民からの資源収奪を激化させている。再開発の強制移転や工業団地建設でウイグル農民の一人当たり耕地面積はどんどん小さくなっている。しかも、現在ここの青年は中国の他の地区の青年と同様、低効率、低収入の仕事に就きたがらず、後進地域で農業に従事したがらない。なぜなら、そうした農業活動は彼らの精神的・物質的な需要を満たすことができないからだ。しかも、ウイグル人の農民は漢人の農民と違いもある。漢人の農民はいつでも都市に行ったり〔=出稼ぎ〕、サービス業に従事したりでき、労働者になれる可能性も大きい。だが、ウイグル人農民の選択肢は非常に狭く、ウイグルレストランか、わずかなウイグル人経営企業しかない。だが、現在ウイグル人の大学生も大量に失業していて、農民とそうした仕事を奪い合っている。それはウイグル人大学生の労働者化、農民化を意味し、ウイグル人農民の境遇はますます悲惨になっている。だが、中国の学者は当局側であれ、在野であれ、だれもこの点に注目していない。つまり、新疆ウイグル人内部社会の構造変化に気づいていない。彼らはGDPだけを見て、GDPの背後の問題に注意を向けていない。

RFI:労働市場全体はあなたの言うように、漢人も求人難だが〔求人難を求職難と誤解しているのか?〕、都市に移る〔=出稼ぎ〕可能性があるが、ウイグル人農民はより深刻な求職難に直面しており、大学卒業生でさえ大量に失業している。このことは大量の内地人が新疆で就職していることと関係があるのだろうか?

イリハム:それだけではない。もう一つの問題はここ45年、新疆では大々的に定住プロジェクトを実施して、社会保障住宅などを建設している。だが、データを見るとそれらの住宅のほとんどは新疆生産建設兵団と〔漢人〕新移民に配分されている。社会科学院の人から聞いた話だと、アクスで調査したところ、現地の社会保障住宅と低価格住宅には地元の人は住んでいなかった。それと同時に、一方で、新疆では大規模な開発区建設が行われ、汚染企業が新疆に移転してきて、同時に大量の内地の資金と移民が来て、もう一方で、物価が急騰している。2009年の頃、30数元で1㎏の羊肉が買えたが、いまは60数元、庶民が肉を買えるかね? 新疆当局はここ数年人民生活は非常に良くなったと強調するが、私が見るところここ45年、新疆の庶民、とりわけウイグル人の生活は非常に厳しくなっている。

★当局の管理は民族の成功を目指すべきで挫折を図るべきではない

RFI:民生問題のほかに、ウイグル人は差別を感じているのではないか、一体差別はあるのか?

イリハム:君は「ウイグルオンライン」を見ているかね。ここ数年、私たちが重点的に注目しているのは新疆での不平等問題だ。それには差別と反差別の問題がある。私は冗談で、2014年は「ウイグルオンライン」の反差別年、2013年はウイグル人の反宗教差別年だと言っている。09年以前は、新疆の一部の地方ではひげを蓄えるのを禁止していたが、今ほど熱狂的ではなく、一般的でもなかった。このやり方は全くばかげている、歴史上、世界中でこんなやり方は見られない。ひげ禁止、服装制限、こんな禁止や干渉は、文革時代にさえなかった。当局のこの規制は法的根拠なく違法なものであり、闇社会のやり方と同じだ。庶民は何を信じ、何に頼ればいい? その結果、ウイグル人はますます自分たちの殻に閉じこもり、同時に非常焦っていて、多くの人が不安障害を患っている。多くの人が、自分たちはどうしたらいいんだ?と自問している。当局の新疆でのウイグル人に対する対応方式は何かね? 彼らはこの民族を成功させるべきだ! この民族の政治的、社会的、経済的、文化的な成功を支援すべきだ。だが、新疆では当局はこの民族を挫折させる方式を用いて管理している。この民族を挫折させることで新疆を中国に引き止め、新疆を安定させることは不可能だ。民族の反対に遭うだけだ。

RFI:彼らに成功感を持たせることで初めて彼らが平穏に暮らし、初めてこの大家族に溶け込んだと感じさせられる、ということだね?

イリハム:そうだ。だが現在彼らは挫折感を感じている。これは農民の問題だけでなく、知識人、幹部、学生、つまり各階層の問題だ。新疆に対して私は以前は楽観していたが、今は非常に心配している。簡単な例を挙げると、例えば私、もし漢人ならば、私の境遇は現状のようだろうか? 長年私は対話に心掛け、提案を心がけ、矛盾を緩和し、ウイグル人と政府、ウイグル人と漢人の間の溝を埋めようとしてきたが、私のような者まで弾圧の対象になっている〔たびたび自宅軟禁の憂き目にあっている〕。しかも、弾圧はどんどん厳しくなっている。新疆全体の状況がどんなか想像してごらんなさい。

★弾圧が集団的経験となっている

RFI:なぜ説得を選ばないのか? 高圧的なのは当局が恐れているからか? もしそうなら、当局は何を恐れているのか?

イリハム:一つは当局が新疆に問題が多く、しかも自分たちが間違っていることを知っているからだ。彼らは庶民の感情も知っていて、だから恐れる。新疆からさらに西側、中東や中央アジアでは変化が生じている。思想上の変化も、運動も発生している。当局は多分そうした変化が新疆に影響することを心配している。もう一つは、新疆内部に確かにそうした可能性がある。新疆は中国の各種の矛盾が集中している所だ。中国の他の地方にある矛盾は新疆にもあるし、中国の他の地方に内矛盾も新疆にはあり、一部はより深刻だ。

RFI:さまざまな心配の中で、当局が一番心配しているのは分離のようだが、あなたは分離主義勢力が本当に存在していると思うか?

イリハム:当局が最も恐れているのは分離だというが、私が思うに、これは当局自身よくわかっていることだが、彼らは完全にそれを抑え込むことが可能だ。実際、新疆の分離主義勢力はそんなに大きくないし、本当の組織もない。おそらく、当局が最も恐れているのは、新疆のウイグル人の民族的アイデンティティーと文化的アイデンティティーだ。こうしたアイデンティティーは集団的アイデンティティーであり、弾圧が集団的経験となったら、当局は必ず恐れる。中国ではなぜ当局は漢人の庶民を恐れないかというと、彼らには連帯感がなく、一人一人はみな不平等と感じ、不合理と感じていても、集団的な感覚はない。だが、ウイグル人は信仰を持ち、民族意識を持つ民族として、その連帯感はますます強まっている。宗教活動が弾圧されたり、例えば私が外出を禁止されたら、他のウイグル人も、自分たちが外出を禁止されたと感じるだろう。君に対してモスクへの参拝を禁止したら、クルアーンを読むことを禁じたら、みんなが同じように弾圧されたと感じる。これは集団的な感覚であり、民族的な感覚だ。当局が新疆で恐れるのはウイグル人の民族的アイデンティティー、宗教的アイデンティティー、歴史的アイデンティティーだ。

RFI:もし私に誤解がなければ、新疆の暴力活動はますます頻繁になっていることは、一つには経済的な圧力、経済的な不平等に関係し、もう一つにはこの民族を成功の方向に助けたり、支援したりしないことに関係しているが、それは当局の政策方向と大きな関係があるのか?

★国家は正義を実現しなければならない

イリハム:当局の新疆に対する対応は相変わらず古いやり方で、高圧的弾圧だ。新疆でここ数年一番増えたのは何だと思う? 警察だ、武装警察隊、それに警察協力員と治安維持部隊。私たちが目にする判例では、有罪判決がどんどん多くなり、しかも処罰はますます厳しくなっている。2月のある事件はインターネットに接続して有罪判決を受けた。有罪となったのはたしか20人、罪名は彼らが国外のメディアの文章をUSBに保存したというものだ。新華社の報道によると、彼らは6年の刑に処せられた。最近のもう一つの事件では、19人が有罪判決を受けた。罪名は外国のビデオを見て、外国のウェブサイトを見たということで、5年の刑に処せられた。こうしたやり方で、庶民は生きていけるかね? 大学の教師として私は北京にいるが、私もウイグル人の境遇が劣悪になっていると感じている。当局は、新疆ではどんな政策を実施するにしても、公正・公平に気を配り、人民が自分がどの民族でも平等に扱われていると感じられるようにしなければならない。政府は平等に取り扱い、正義を実現しなければならない。民間の差別は永遠に存在するだろ。フランスでも、米国でも存在する。だが政府としては正義を実現しなければならない。政府の根拠は法律であり、道徳であり、その地域の歴史なのだ。だが、当局はまったく新疆のそうした問題に注意を払わず、短期的政策にこだわり、自分の政策を飾りたてている。

★ウイグル人は権力層における代表を失いつつある

RFI:政府は近年新疆に大量に投資を提供し、各民族に団結してほしいから、多くのみんなに有利な措置を採っていると言っているようだが?

イリハム:今君の言ったことは国内でみんなが言っている。だが重要なのはその行為が具体的な変化をもたらしていないということだ。当局のそうした投資、そうしたいわゆる新疆援助政策は、地元のウイグル人にどんな関係がある? 集団の間、民族の間の分配はますます不公正になっている。権力層から見ても、中央から地方まで、ウイグル人の代表はますます少なくなっている。自治区の15人の〔共産党〕常務委員中、ウイグル人は4人だけだ。はなはだしくは中央で、もともとずっと2人の代表がいて、一人は政治協商会議副主席、一人は全国人民代表大会常務委員会副委員長だった。いまはただ一つ、全国人民代表大会副委員長だけで、しかもこの副委員長は新疆人民代表大会常務委員会主任を兼務している。だが、彼は共産党中央委員でも、中央委員会候補委員でも、自治区共産党委員会の常務委員でさえない。

RFI:ウイグル人幹部の末端における状況はどうか、ウイグル自治区でどれだけの比率を占めているのか?

イリハム:自治区では、もともとウイグル人が自治区共産党副書記を務めていたが、いまは一人もウイグル人の副書記はいない。各地方では、公安から政法委員会〔裁判所を監督する党機関〕まで、一部の地区ではウイグル人は空席で、いくつかのポストは他のより小さな民族に取って代わられた。だが、以前と違うのは、新疆政府が前より聡明になり、宣伝が上手くなったことだ。宣伝は前よりうまい。宣伝の面では、当局はウイグル人の生活に非常に関心を払い、ウイグル人の権利に関心を払っているように言っている。だが実際に我々が目にするのは、新疆では当局の行為は権力の調整に及んでおらず、新疆内部社会レベルの各種の不平等、各民族間の不平等に注意を向けていない。しかも、ここ数年、そうした不平等はますます顕著になっている。ウイグル人はますます不快を感じている。

★いまは新疆政策調整の正念場だ

RFI:あなたは前回の取材の時より悲観的では? 新疆問題の解決の出口はどこにあるとおもうか?

イリハム:私はいま、多くの人々のように悲観はしていないが、楽観もしていない。2009年、2010年、張春賢書記が新疆に行ったとき、私は大きな光が見えたと思った。政策調整があると思った。だが、新疆当局はすでに最良のチャンスを逸した。だが、私は中央が決断しさえすれば、新疆自治区共産党委員会、張春賢書記が決断しさえすれば、現在でも十分間に合うと思う。一部の人が言うように完全な手遅れというわけではない。私の悲観は、ただここ数年、私は非常に期待していた、新疆当局にとっての本当に最良のチャンスを逸したことだ。だが、今でも機会はある。新疆の多くの問題について、すぐに手を付け、すぐに決断できないだろうか? 最速で、大きな智慧で、大きな調整はできないか? どう調整するか? ウイグル人社会の様々な意見を聞き、当局がもし正式な方法行うことが政治的にできないと思ったら、非正式な方法は採れないか? セミナーを開いて、正式な調査研究大隊を組織するという、前回と同じように膨大だが形式的なものではなく。いまは、私が思うに政策調整の正念場であり、しかも以前の民族委員会の主任の、モンゴル人が中央書記処書記、国務院秘書長に就任した。思うに、これは民族政策上の大きな調整の開始だと思う。もう一つ、以前の中央新疆調整弁公室は政法委員会に設けられていたが、いまは国家民族委員会に移され、弁公室メンバーも国家民族委員会の主任になった。私はこれは調整の開始だと思う。

★高圧的弾圧を続けるなら、抵抗が全民族の文化になる

RFI:調整は具体的にはどこから始まるのか? 抑圧軽減、民生問題、待遇、機会均等、民族間の相互対話などなど?

イリハム:新しいリーダーは就任したばかりで、一定の時間がかかる。彼らの国内の他の面での政策もまだはっきりしていない。私は現在は調整の必要な時だと思うが、新疆でこうした問題が起きた。新疆で問題が起きると、当局は弾圧、弾圧、弾圧、高圧の上に高圧の悪循環になる。高圧的弾圧は新疆では高圧的反発しか生まない。このままいけば、抵抗が一種の文化になり、抵抗事件だけでなく、あるいは村ごと問題が起きたり、全民族に抵抗文化が形成されるだろう。私は私の民族を知っている。この民族には夢がある。この民族には強い歴史文化、民族的伝統がある。それが尊重されなければ、この開放の時代に、インターネットの時代に、この民族も全面的対抗に向かうだろう。民族運動を作り出すだろう。私がこういうと当局の怒りを買って、多分私は非常に不利な処遇を受けるだろう。だが私は言わないわけにはいかない、当局のやり方は非常に愚かだ。

RFI:あなたは一方で新しい共産党指導部に期待し、新疆問題の解決はまだ間に合うと言うが、もう一方で、当局のやり方は愚かで、いま徹底的な改革が必要だという。もしそれができなければ?

イリハム:考えてもみたまえ、いまもし間に合わなければ、当局が政策調整しなければ、将来どうなるかね? 中国の民主化後どうする? 中国の民主化はだれにも止められない。だが私が最も心配するのは政府が作り上げたこれらの負債を、最終的に双方の民族が清算させられることだ。もし政府が作ったのなら、政府と庶民の間の問題で、政策を通じて、制度を通じて変更可能で、政府が善意を発揮すれば調整可能だが、現在のこの問題が長く続いて、民族間の全面的な憎しみに転化すれば、制度変更、政策変更では解決できなくなる。個人の憎しみは、一世代が去るだけで薄めることができる。だが〔民族間の憎しみの希薄化には〕数百年かかるが、中国にはそんなに多くの時間がない。漢人にはそんなに多くの時間はないし、ウイグル人にもそんなに多くの時間はない。だから、私は国外の漢語メディア、中国系メディアであれ、国内の学者であれ、政府内の人であれ、この時期に我々は団結して、共同の問題、民生、民権、民主、法制に注目しなければならないと言っている。我々は助け合い、共に働きかけ、共に我々の未来を勝ち取らなければならない。我々は呼びかけなければならない。一部の矛盾を庶民の間の矛盾にしてしまわないように。私も当局に対して、政策を調整しなければならない、歴史の罪人になってはならないと呼びかける。

〔 〕内は訳注

0 件のコメント:

コメントを投稿